錠剤

この間風邪をひいて病院へ行ってもらったたくさんの薬のうち、一種類だけを一錠余らせてしまった。

割と真面目に飲んでいたはずなのになぜそんなことになるのかわからなくて、ただでさえ薬という存在に必要以上の恐れを抱いているので、その一錠を単体で飲むことも捨ててしまうこともできかねて、机の上にもう一週間ほど置きっぱなしにしている。何の薬かわからなくなるとなお怖いので、薬の説明が書かれた外袋も一緒に置いている。

それがいつも目に付くのですごくいやだ。視界に入るたびに、30歳にもなって薬をお医者さんの指示通りに飲み切ることができなかった自分というものを突き付けられてしまう。

捨てられないならせめて、目につかないところにしまうなり隠すなりすればいいのだけど、そうすると一錠だけ残った<それ>のもつケガレのようなものを増幅させてしまいそうな気がして、できない。戸棚の奥でほの暗い感情を人知れず育みつづけた<それ>がある日自分自身のケガレに耐え切れず襲いかかってきたとしたら、僕はひとたまりもなく飲み込まれてしまうだろう。

<それ>は今日も机の上にありつづける。 僕は<それ>を見ながらビールを飲む。プレモルだ。白くて丸くて小さい<それ>をプレモルで一気に流し込んでしまいたい衝動に駆られる。

でもそんなことはできるはずもない。そういうことができる側の人間はそもそも飲み残した薬を一週間も置きっぱなしにしたりしない。ケガレにおびえたりしない。そういうものなのだ。

 

 一つだけ残ってしまった錠剤を空想上のビールに溶かす