僕ラブ19 渡辺曜短歌連作「燃ゆる汀に」 31首

渡辺は

渡辺は真夏の海を飲み込んで「へへ、しょっぺ」って笑ってたんだ

Who are you? 冗談交じりに話しかけ I am You! って撃ち返される

渡辺は波打ち際に生息しときどき遠い目をする習性

渡辺が降り立つとこがいつだって世界の中心 僕らは回る

夏芙蓉咲き誇り立つ王国の姫君として笑え、渡辺

星を産むように軽やか渡辺がはっ、とっ、ぱっ、て駆け抜けていく

光とか輝きとかの謂として渡辺曜よそこにあれかし

渡辺よお前はお前のままでいろ恋になるのは俺だけでいい


男子中学生

渡辺はなんでもできる系のやつだと思っててだと思ってる

渡辺にすらりと伸びる四肢があり光や水に浸されている

渡辺曜 プールサイド」の文字列を三時間ほど眺めていたり

月曜から金曜までは渡辺曜残り二日を俺は知らない

渡辺と俺の知らない渡辺が渡辺のなかに同居している

無防備な顔をするなよ渡辺曜お前を好きになりたくはない

渡辺曜髪をちっちゃく結ぶなよお前を好きになりたくはない

渡辺の思ったよりも薄い肩お前を好きになりたくはない

スポブラか?スポブラなのか?渡辺曜お前を好きになりたくはない


高みから

誰よりも知ってるはずの高みから繰り返し繰り返し落ちていく

落ちていく一秒、二秒、その間自由になれるはずだったんだ

重すぎるおもいに沈んでいくあいだ地上の君は空を見上げる

落下する、沈む、浮かぶ、息をする。溺れることはうまくできない

君が私を見るのと違うやり方で君のことずっとずっと見ていた

飛び込みと飛び降りの違いについて知らないままで くるくる じゃぼん


燃ゆる汀に

渡辺曜きみは一人でこの海と風に向かって立っていたのか

雨風に晒されつづけこの身体流線形に削ぎ落ちていく

「なんだってできちゃう」私の心臓が纏う無数のアンダースタディ

溶けたくて何度も何度も落ちてみる七割ほどは水である身を

水際に刹那身体を研ぎ澄ます最も水に愛されるよう

入日射すプールサイドに身を干して熱の在りかを確かめている

心臓の熱さは逃さないように指の先から水に馴染ます

制服と千のペルソナ脱ぎ捨てて燃ゆる汀に素裸で立つ